仕事とてこの原理
JICAで6年、ILOで2年を過ごした経験から見えてきた原理があります。てこの原理です。
JICAは日本企業文化を踏襲していて、チームで仕事をします。職員の仕事は事業を企画して予算編成し、チームを集めて現地で支援展開してもらうこと。つまり、JICA職員に求められていることは、トータルマネージメントと言うわけです。この仕事スタイルであれば、職員一人当たりの予算は極めて大きなものになります。私が新入社員時代に抱えていたアフリカ支援のポートフォリオの年間事業費は60億円でした。
それに対してILOはどうでしょうか。職員一人ひとりが、自分の案件を一つや二つ抱えていることが多いです。また、開発ではなく政策を仕事にしている人が多いため、一人の職員がドラフトから最終稿までを全て担当することも一般的です。こうした仕事の場合、自分の労力の投入1に対して、アウトプットも1しか出ません。
何が言いたいのかというと、JICA職員として仕事をすると、レバレッジの聞いた仕事ができるというわけです。レバレッジを日本語で言えば、てこです。てこの原理。小さな力で大きな石を動かす。一人の力で大きな事業を展開する。
私の感覚ではILOの政策部局の職員の立ち位置は、JICA事業で言うところの専門家・コンサルタントに当たります。個別の案件レベルで活躍することが求められます。一方、大きな絵を描いてチームを管理し、大規模な事業をいくつも同時展開していくような企業文化・体制はありません。
要するに同じ「職員」という肩書きでも、働いているレベルが全く異なるということです。レベルが高いか低いか、良いか悪いかの話ではなく、マネージャーかスペシャリストの違いです。
これを組織単位で見るとどうでしょう。JICAの場合、新人時代からマネージャーとして鍛えられます。当然、マネジメントスキルの高い若手が育っていきます。一方、ILOのような国際機関にいると、ろくにマネジメントをやったことが無い人が50代で管理職になっていきなりマネージャーとなります。
何が起こるか。JICAのようなマネジメント重視の組織は、組織対応を得意とします。たとえば、「現在、ケニアではどのようなプロジェクトが存在するのか」と東京本部に質問がきたとします。東京の担当部署は即答できるでしょう。一方、国際機関の場合、半年経っても案件リストが出来上がらないということがよくあります。
国際機関の人々は、「現場で迅速に判断できるように権限を委譲している」と得意げに言います。しかし裏を返せば、組織対応が得意でないということです。統率の取れた組織体制とはなっていない。どこまでいっても、「良いマネージャー」が運よく存在するかどうかが、そのチームのアウトプットに繋がるわけです。個人主義と言うのはこういうことですね。
これはヨーロッパ文化なのかもしれません。
JICAや日本の組織の人と会議をすれば、誰と話をしても組織としての回答が得られるでしょう。国際機関の人と話をしても、組織としての回答は得られません。その人の私見が延々と語られることでしょう。
「国際機関で生き残るにはコネが必要」と言われる所以はここにあります。あなたは組織と話しているのではなく、個人と話しているからです。
こうした組織文化の違いを達観しておくことが、国際機関との仕事や国際社会でのビジネスで大切なのではないかと最近感じます。