タクシー運転手にイスラム教を勧められる

タクシー運転手と色々な話をするが、時々宗教の話になる。たいてい、インドネシアの女性を勧められ、「宗教心の強い女性が良い」と言われる。無神教の私にとって、あまり心地よくない話題だが、仏教徒だと取り敢えず言う。

インドネシアでは宗教の無い人は公式に存在せず、公的な登録の際には宗教を選択させられ、IDなどに記載される。だから、無神教はこの国には存在しない。

仏教徒だと取り敢えず言うと、イスラム教が以下に優れた宗教か演説が始まる。「神はアラーしかおらず、他の宗教は偽物。その証拠に、なぜ人間が作った十字架や仏像に祈るのか。神はそれを作っていない。ムスリムは祈りさえすれば天国へ行ける。」信じる神がいない私は「ほうほう。」と聞き流す他ない。

こういう輩が増えると争いになるのだろう。まだ施行されていないが、多民族国家インドネシアの新刑法は他人を改宗させるため説教することを犯罪と規定している。無駄な争いを抑制するためなのだろう。

翻って私の仕事では宗教的価値観に侵入する瞬間が多い。怪我や病気をしないために祈りを捧げる人々へ向かって、「いくら祈っても怪我や病気は誰にでも起こりうることで、だから労災保険や健康保険が必要です。」と説く。

息子が親の世話をするのは当然と考える家族観に対し、「次世代はあなた達の面倒を見ることができなくなるから、年金制度が必要。」と脅しをかける。

論理立てて数字を示しつつ丁寧に説明するので、表面上は理解を得られる。しかし、心の奥底までは響かず、旧来の宗教や民族的価値観が無意識下に眠っている。

タクシーには色々な出会いがある。帰りのグラブタクシーの運転手は、最大手製薬会社に3年勤めた後、大手倉庫会社で勤務したが、先月解雇されたそうだ。退職金と失業給付を受けたそうで、流石大手企業。子供が一人いる彼の顔色は優れず、人はお金だけでなく、甲斐のある仕事を欲している。

取り敢えずはじめたというグラブの収入を聞くと「文句ばかり言っていても仕方がないので、一生懸命働くしかありません」とのこと。本当に色々な人がいて、その数だけ人生がある。こういう人が救われる社会作りに貢献できれば、職業人として幸せである。

ところで、解雇されてすぐにアプリをダウンロードして、グラブタクシーから収入を得ることができる。また、ペットホテルの小さなビジネスもやっているようで、収入源は色々分散させているようだ。