ランナー
100メートルを駆け抜けるとき、僕らは息を止めて全速力で一息で走る。
42.195キロを走るとき、僕らはテンポよく呼吸を整えながらマイペースで走る。
仕事や人生なんて本当はマラソンのような長旅なわけだけれど、
僕らはときとして100メートルを走っているような気になってしまう。
沿道の応援団が呼吸を整えろっていくら叫んだって、
後ろから伴走する自動車の監督がいくら叫んだって、
そんなときは息を止めて全速力で走ろうとしてしまう。
それが100メートルではなく42.195キロだって気付いたときにも、
一旦スピードを落とすともうスピードを上げられないんじゃないかって、
結局息を止めて全速力で走ってしまう。
給水所が近づくたびにひと呼吸いれて、
また次の給水所まで一息で走り切る。
それを僕らの世界では、ガス抜きとか言うらしい。
そうやって無理して脱落していくランナーも多い。
それでも息を止めて40キロくらい走り切って、
顔を真っ青にして「あぁ、あと2.195キロか」って安堵する。
「バカだなぁ」なんて思いながら、
僕らは結局息を止めて42.195キロを走っている。