専門家と営業マンの対立と私

ピーターティールの本の一節に「科学は見るからに難しそうなので、過大評価される」「専門家は自分の仕事は大変だと感じ、営業がランチに2時間出かけていることをサボっているとみなす」という話があって、研究と実務を行き来する私は5万回頷いて首がもげそうになった。

この話には続きがあって、「営業を簡単そうに見せるのがいかに大変かを、専門家は理解していない」とある。スタートアップ企業におけるエンジニアと営業の対立を描写したものだが、私たちの仕事にもよくあてはまる。政策対話をやっていると、研究者と営業の一人二役を一日の中で何度もこなす。

たとえば、世の中の99%人は、「貧困率が半減したので、この政策は上手くいった」と言われたときに好意的に受け止める。それが、何十もの仮説の上に成り立った計算だったとしても、半減という数字だけが注目される。

一方、「保険料は払いたくないけど年金は欲しい」という大多数の労働者と科学や合理性に基づかない議論を何ヶ月も何年も繰り返すことに、科学者や研究者は無関心なわけだ。だが、世の中を変えるのは、前者ではなく、残念ながら後者であることが多い。