記事にならなかった取材メモ「世界で活躍する十勝人」

地元十勝の月刊紙「しゅん」10月号に取材記事が掲載されたとお伝えしました。ここでは掲載されなかったものの、取材の過程で私の方で用意した質疑応答資料を公開したいと思います。国際協力のキャリアに関心のある方の参考になれば幸いです。

1. 今、海外でどんな活動をしていますか。

開発途上国の貧困削減と社会保障整備を支援する仕事をしています。現在は国際労働機関(ILO)のスイス本部の社会保障局というところで働いています。社会保障がまだ整備されていない開発途上国の政策・制度設計を支援するのが仕事です。

2.海外に移住したきっかけは何ですか。

海外に住んでいるのは仕事が理由です。これまでは数年おきに仕事が理由で欧米やアジア・アフリカを転々としてきました(これまでは英語だけで十分生活できたのですが、今はフランス語圏に住んでいるので言葉がわからず、苦労しています)。

大学時代ニュージーランドへ8か月間語学留学したのが最初の海外生活でした。現地の方の家でホームステイする中で英語は上達し、大学卒業後はイギリスの大学院で開発途上国の貧困問題について1年間学びました。その後、カンボジアの首都プノンペンで児童労働と社会保障分野で半年間働きました。それから4年間は国際協力機構(JICA)の東京本部でアフリカの経済・社会開発の支援事業に従事。その後2年間はJICAアメリカ事務所の駐在員として、ホワイトハウスのあるワシントンDCで過ごしました。JICAは帯広にも事務所がありますね。今年3月にJICAを退職し、4月からILOへ転職しました。スイスへ来たのは仕事が理由です。

3.今住んでいる国の好きなところ・食べ物・文化などは何ですか。

好きなところ

スイスの好きなところは、十勝と共通点が多いところです。十勝には日高山脈、糠平湖、然別湖があり、スイスにはアルプス山脈、レマン湖があります。地元士幌町では、士幌高原や東ヌプカウシヌプリ・白雲山を見て育ったのですが、スイスの自宅からはジュラ山脈を見ながら一日が始まります。スイスにいながら十勝で暮らしている感覚を得られるのは幸せですね。

食べ物

スイスでは酪農が一大産業ですから、牛乳、ヨーグルト、チーズの種類がとても多いです。スイス料理・チーズフォンデュは皆さんご存じなのではないでしょうか。乳製品が有名なスイスですから、街はずれには当然牧草地があり、丸められた牧草ロールがあちらこちらに転がっています。十勝でよく見る風景ですね。また、気候も涼しく、暑い夏も日影に入ると涼しい十勝と似ています。あまり輸出されていませんが、スイスはワインも作っていて、国民に愛されています。スイスには十勝のような風景があり、地元に住んでいるような落ち着いた暮らしができています。

文化

スイス人は自然が大好きです。夏は登山やハイキング、冬はスキーを楽しみます。国中に鉄道とハイキングコースとロープウェーが張り巡らされ、好きな場所で電車を降りてハイキングへ出かけることもできます。また、スキーが盛んなことから、ロープウェーも国中いたるところにあります。すべての山に設置されているのではないかと錯覚するほどです。足腰に自信がなくとも、ロープウェーで富士山くらいの標高まで三十分程度で行くことができる場所もあります。自然に囲まれて育った私にとっては、自然の中で生きるスイスは気持ちが良いですね。

4.文化の違いに驚いたことなど何かありますか。

公私の区別

仕事仲間と飲みに行かないことは、日本との大きな違いだと感じました。アメリカでもそうでしたが、現在の職場でもアフターファイブは家族と過ごすのが当たり前の文化のようです。仕事と私生活を完全に分けているようで、同僚と職場外で過ごすことはあまりないようです。歓送迎会なども業務時間ない(昼食時)ランチが一般的でした。家族にとってはとても良い文化ですね。一方、独身にとってはなかなか友人を作りにくい環境かもしれませんね。

物価

文化ではありませんが、物価の高さには驚かされます。スイス・アメリカ・イギリスに住むと物価が日本の何倍もするので(スイスでは普通のランチ三千円、ディナー七千円など)、基本的には自炊をしています。私のようにいろいろな地域を転々とすると、日本食が手に入りにくいので、基本的にはその土地のものを料理して自炊するように自分の食生活を合わせるようにしています。スイスで驚いたのが、鶏肉の切り身1パックが千円くらいする一方、丸鶏が500円程度。スイスの人件費は高いので、鶏肉は解体していない方が安いようです。そのおかげで、丸鶏を自分で解体することができるようになりました。

ケニアの歓迎方法

ケニアに4ヶ月滞在した際、孤児院で一週間共同生活させていただく機会を得ました。そこで私を歓迎するための食事会を開いてくれたのですが、文化の違いに驚きました。ふいにヤギが連れてこられて、包丁を渡され、私が屠畜することに。そこの文化では屠畜するのは名誉あることのようで、私にその役目をくれたようでした。肉はもちろん、血もトマトスープに混ぜて食べる文化も新鮮でした。

5.海外に住んで気づいた十勝の良いところは何かありますか。

水がおいしいところですね。これまでアフリカ・アジアの開発途上国と欧米の先進国で生活してきましたが、水道水が本当においしい場所は十勝でした。もちろん衛生上飲めない国もありますが、アメリカやイギリスといった先進国でさえ、おいしい水を飲むことはできません。冷たく新鮮な水が蛇口をひねれば出てくるのがよいですね。十勝にいると当たり前のことですが、海外では美味しい水に出会うことは難しいです。

美味しい水があるということは、自然に囲まれていることの裏返しだと思います。十勝では目と鼻の先に音更川や十勝川があり、大好きな川釣りもできます。より新鮮な空気を吸いたければ登山ができます。大自然と触れ合いながら生活できるのが十勝の良いところですね。

6.今後の展望について教えてください。

東南アジアの開発途上国で働きたいですね。最近は日本企業も随分進出し、経済成長も著しい地域です。一方、経済成長に取り残される人はたくさんいるのも実態で、途上国の政府が担う役割は大きいです。社会保障分野で開発途上国の政府をサポートすることで、貢献していけたらと思います。また、右肩上がりの元気のある国や地域で暮らすことは、自分の私生活の面でもとても楽しみですね。

7.十勝のみなさんに何かメッセージはありますか。

色々な国や地域で生活し、多様な環境で仕事していますが、十勝が一番です。海外での経験を十勝に還元できる日を夢見ています。