国連職員の給料(給与カット編)

昨日の記事では、「国連職員のリアルな懐事情」を紹介しました。今日は国連職員の給与カット編をおおくりしたいと思います。

給与カットなんてあるの?

結論から言いますが、かなりレアだと思います。国連職員の給与はICSCという機関が一律に決めており、懲罰や業務成績が理由で減額されることはあまりなさそうです。もちろん、契約ベースで働いていますから、パフォーマンスが悪ければ契約を延長されないことはよくあることかと思います。ここで言いたいのは、契約期間中に大幅な給与カットが実施されることはあまりないのではないかということです。

ジュネーブの国連職員の給与が7.5%カットされることになりました

しかし、レアケースに出会うこととなりました。ICSCが発表したプレスリリースによれば、「ジュネーブの国連職員の給与をカットすることを決定した」とのこと。ジュネーブ駐在員のみをターゲットとした狙い撃ちです。別の記事に詳細に書かれていますが、給与の減額幅は7.5%。減額理由は、「ニューヨークの物価上昇によってニューヨーク駐在員の購買力が低下したため、ジュネーブ駐在員の給与水準もニューヨークレベルに引き下げる」とのこと。

先の記事にも書かれていますが、ニューヨークの購買力が低下したのであればニューヨークの給与水準を引き上げるのがロジカルです。しかし、なぜか「ジュネーブの給与水準をニューヨークレベルに引き下げる」という発表がなされました。良くわからない理由によって給与が大幅にカットされることから、ジュネーブの国連職員(労働組合)はデモを行いました(私は参加しませんでしたが)。

減給のからくり

7.5%の根拠ですが、昨年10月に物価水準に関する調査があり、その結果を受けて引き下げ幅が決定されたようです。この調査はジュネーブで勤務する国連職員を対象に行われました。ここからは憶測になりますが、国際機関は予算が厳しいこともあり、減給ありきの調査だったのかもしれません。

実はジュネーブに勤務する多くの国連職員はフランスに居住しています(EU圏出身者は在留できる)。国境を越えて自家用車で出勤した場合、所要時間は15分程度。それでいて物価はジュネーブの半額以下です。ジュネーブ水準の給与を受給し、フランスの安い物価の恩恵を受けている国連職員がかなりいるようです。これは周知の事実なので、ジュネーブ駐在員を対象に物価調査を実施すれば、「給与は多すぎ」という結果が出て当然ですよね。おそらくこれがからくりだと思います。

国連職員のリアルな懐事情への影響

月収6万円、年収70万円程度の減給となります(※内訳は下部、減給前の数値は昨日の記事をご参照ください)。直近の生活には影響しませんが、生活資金を除く手取り(預金)の約3割を失うこととなるのでダメージはありますね。

特にジュネーブの生活費は極めて高く、普通に生活しているだけで毎月50万円程度の支出があります。雇用が不安定なことから、契約満了後の数ヶ月間、ジュネーブで就職活動する人もいます。そのような事態に備えて、数ヶ月分の生活費は確保しておきたいところですが、今回の減給によって1ヶ月分のリザーブがなくなりました。

たしかに、今後も「お上の一声」で突然収入が減るとなると、生活も逼迫してきそうですね。高い家賃を回避するために、誰かとルームシェアすることも視野に入ります。ただ、大家さんとは1年契約ですから、現在の家賃は払い続けなければなりません。引っ越す場合には「また貸し」して相殺しなければなりませんね。

減給に対する個人的な感想

個人的には「ふざけんな!」という感情は微塵もなく、あまり気にしていません。「給料よりやりがいを重視しないと国際協力はやっていけない」という良い事例ですね。

ただ、強いて言えば、「一律減給は若手にとって厳しい措置だな」という印象はあります。シニア職員の方が可処分所得が多いにもかかわらず、一律減給となると若手職員の生活へのインパクトが大きいです。そもそも、フランス在住者とスイス在住者で物価調整給に差をつけていないのが変ですよね。あまり関心は無いのですが、何だかよくわからない減給という感じはしています。

実は私、かなり金運がありません

今回の減給で「不感症」になっているのには理由があります。実は、減給となったのはこれが人生2度目です。ですから、「あー、またか」というリアクションでした。

1度目は、JICAに勤務しているときです。東北大震災以降、復興財源確保を目的に、私の給与も4~5%程度(2年間?)カットされました。他にもいろいろな要因がありましたが、初任給を超えたのはJICAに勤めて4年目だったかと記憶しています。

また、ワシントンDC駐在員時代、突如として円安ドル高が急速に進んだため、冗談抜きに毎月赤字でした。国家公務員の為替・物価調整は年に1~2回で、遡及的な見直しはほとんど実施されないため、為替や物価の急速な変動は駐在員の自己負担となります。

最後に

国家公務員と国際公務員として仕事をしてきました。北海道の田舎に帰れば、「公務員」は最も安定した職種として「崇拝」されますが、ご覧のようにそうでもありません。特に国際協力業界は例外でしょうね。直近でも、UNFPAに対する拠出金をアメリカ政府が停止することを発表しました。国内・国際政治の影響が直接家計に響くのがこの業界の特徴とも言えるでしょう。

話をまとめます。これから国際協力キャリアを歩む方に、この記事でお伝えしたかったことは、「減給リスクや不安定な雇用実態がいかに残酷なものか」ということではありません。こうした事態に見舞われたときに、複数の収入源や稼ぐスキルを持っていると、平常心でいられるということです。そして、それらは一夜にして得られるものではなく、日々コツコツと積み上げ無ければ得ることができないものだということです。

このブログで以前、「国際協力を仕事にするなら投資を勉強すること」と書きました。資産運用もリスクヘッジの一つです。私は資産運用や為替リスクの分散などに興味を持って勉強を続けて10年になります。詳細に公言できるレベルにはありませんが、たびたび見舞われる「個人的な金融危機」を経験してきたからこそ意識的に取り組めているのだと思います。

また、副業で収入源を多様化したり、NGOやビジネスを通じて途上国で個人プロジェクトを実施するのも一案かと考えています。

そして何よりも、お金だけでなく、やりがいの多様化も重要ですね。

※内訳(ジュネーブ勤務、若手(P2)、単身(妻子無し))

収入 支出 備考
給与 400,000 家賃 280,000
物価調整給 300,000 年金 70,000
住居手当 50,000 医療保険 30,000
朝食 10,000 500×20日間
減給  (60,000) お茶 10,000 500×20日間
昼食 30,000 1,500×20日間
夕食 40,000 10,000×4週間
外食 20,000 10,000×2回
インターネット 10,000
電話 5,000
散髪 5,000
一時帰国費用積立 15,000 年1回帰国する際の航空賃
その他 5,000 火災保険・交通費
預金 160,000
収入合計 690,000 支出合計 690,000