ユニクロの垂直統合、中所得国の罠、ミッシング・ミドル
ファーストリテイリングが生産ラインの垂直統合を進める報道。直接の雇用関係がないサプライチェーンの末端までバイヤーの(法的責任ではなく)社会的責任を求める国際社会の風潮を反映したものだろう。経済的に成長し、中所得国となっても、労働者の保護制度が無い・曖昧な国が多い。
こうした国にはMissing middleといって、貧困層と高所得者層の社会保障は充実しているものの、中間層の保護制度が皆無の国が多い。ODAは経済規模を基準として割り振られることから、中間層の保護に問題を抱える多くの中所得国はODAによる支援を受けることが難しい。
例えば、雇用保険制度が無い国では、企業が退職金によって失業時の所得補填を行う社会的な仕組みとなっていることが多い。しかし、バイヤーとサプライヤーは直接の雇用関係が無いことから、法的な責任は負わない。サプライヤーが法を順守して退職金を支払えば問題ないが、支払われないことも多い。
バイヤーがこうした国で生産する場合、サプライヤーの選定、指導、監視がリスク管理となる側面がある。我々としては、こうした国の社会保障制度を充実させることで、企業が直接所得補填する必要のない状況を目指す。それによってサプライヤーもFDIも労働者も、安心して仕事できるようになる。
東南アジアの大手ライドシェア会社と話をした際のトピックが印象的だった。この地域では、プラットフォーマーに使用者としてのステータスを求める国がある一方、そうでない国も多い。プラットフォーマーに労災保険への加入を義務付けている国もあれば、ドライバーは個人事業主とみなされる国もある。
企業の社会的責任の一環として、ライドシェア会社が率先して任意加入を促進する方策を講じ、その研究結果を以て政策提言する(労災保険へ加入することによって保護されるドライバーと、それによるコストなど)と、企業が社会保障制度の改革をリードできる。そういう試みが増えればよいと思う。