国連職員の給料(30代前半独身の場合)

国際協力をキャリアとして考える方にとって、国連職員の給与事情は大きな関心事かと思います。私も転職の際に様々なウェブサイトを検索して情報収集しましたが、「国連職員のリアルな懐事情」を公開しているソースは多くありませんでした。収入や支出を知らずして、自分の人生を賭けるというのは難しいことです。このような事情を踏まえ、私のケースを参考に「国連職員のリアルな懐事情」を紹介しようと思います。

そもそも国連職員の給与は公開されている

以前も書きましたが、そもそも国連職員の待遇についてはインターネットで公開されています。国連開発計画(UNDP)のウェブサイトに必要情報を入力すると、自動計算された数字が出てきます。また、外務省国際人事センターでも国連職員の待遇に関する情報を掲載しています。国連機関はどの機関も(ほぼ)一律の待遇を採用していますから、「あの人はいくらもらっているか?」という情報は公開されているわけです。そういうわけで、今回の記事はスクープでも何でもなく、先のウェブサイトで計算していただくと得られる情報とほぼ同じかと思います。

月収は75万円

前提条件は、ジュネーブ勤務、若手(P2)、単身(妻子無し)。まず、月収は75万円。内訳は、給与が40万円、物価調整給が30万円、住居手当が5万円です。物価調整給は、物価の高い都市で勤務する場合は高くなり、物価の安い都市で勤務する場合は低くなります。ジュネーブは世界トップクラスの物価水準であるため、物価調整給が大きくなっています。

ボーナス・残業手当はありません

月収以外の収入はありません。日本の公務員や大企業であれば、数ヶ月分の給与がボーナスとして支給されたり、残業代が「手取り」の底上げに大きく貢献したりします。

支出は最低でも53万円

おそらく、53万円程度は最低限の生活費として必要かと思います。内訳は記事下部の表をご覧ください。ご覧いただくとわかる通り、支出の大部分が家賃と食費です。社食(昼食)以外の外食を2回想定していますが、自宅付近に「一人飯(外食)」をできる場所がないため、週末含めほとんど外食をしません。知人と夕食をするのも多くて月2回程度です。東京では残業で帰宅が遅くなった際には駅でラーメンや牛丼を食べていましたが、ジュネーブでは基本的に自炊です。

ジュネーブの物価については様々なインデックスがありますが、普通に生活している肌感覚としては「東京の3倍」です。食費の節約術は色々探していますが、生鮮食品の価格は比較的安価であるため、助かっています。

ちなみに、私の場合は他の若手と比較して家賃が3万円程度高めです。これは着任時にどの程度安いところを見つけられるかに掛かっているためコントロールできません。ジュネーブでは空室を見つけることが難しく、数ヶ月もの間契約できない人もいます。私の場合は不動産契約にこぎつけるまでに一ヶ月を要し、数万円高くても契約できてよかったという感じでした(最初の一ヶ月はエアビーアンドビー‎に滞在し、20万円程度でした)。

預金は22万円

これを多いと見るか、少ないと見るかは判断が分かれるところです。東京で生活することを考えれば明らかに多すぎですね。1年間預金した場合、東京で丸1年収入が無くても生活できそうです。一方、ジュネーブで生活をすることを考えれば、5か月分にしかなりません。いずれにせよ、1年後、仕事があるかもわからず、世界のどこへ引っ越さねばならないかも不確定なので、蓄えられるときは蓄えておくのがよさそうです。失業保険もありませんから、一年後の雇用が確約されない中で預金はある意味で雇用保険とみなすこともできるかもしれません。

支出の上振れ要因(レジャー・旅行・衣類):5~10万円

今回のシミュレーションでは、レジャー、旅行、衣類に関する代金は加算していません。ジュネーブで仕事をしていると、本当に仕事だけの生活になる人も多いです。この小さな街には国連関係者も多く、ジュネーブに週末も長期休暇もずっと滞在していると精神的に参ってしまいます。そのため、周辺国への旅行やレジャーで息抜きをすることが、ある意味で精神衛生上不可欠と感じます。実際、ほとんどの同僚が週末や長期休暇でジュネーブを頻繁に離れ、息抜きをしているのが実態です。よくあるのは、金曜日の夜便でジュネーブを発ち、月曜日の早朝にジュネーブへ戻り、そのまま出勤するパターンです。私は週末も自宅に籠るケースが多いのですが、同僚の多くが多かれ少なかれ、このパターンで息抜きをしています(母国が近い人もいますしね)。実態としては、多くの人にとって旅行やレジャーは、仕事を続ける上で不可欠な支出になっているような気がします。

これを支出に換算してみます。ジュネーブ以外で毎月2泊3日休暇を過ごすと、航空賃・宿泊費で5~8万円は必要になります。これがスイス国内の場合、電車賃が1~2万円、宿泊費が3~5万円といったところでしょうか。

また、ジュネーブでは衣類の購入も容易ではありません。特にビジネススーツに至っては高価格帯(10万円前後)の店は多いものの、私が愛してやまないAOKIやハルヤマの価格帯は皆無です。また、日本人の体形に合うジャケットもスラックスも無いため、ジュネーブで購入するのは極めて難しいです(事実、ジュネーブ到着後に購入しようと思い、引っ越し前に気潰したスーツを捨てたものの、まだスーツを買えていません)。物価の安いフランス、イタリア、イギリスまで衣類の買い出しに行く人も多いです。購入費のほか、裾上げ代金、遠征費などなど、塵も積もれば山となってしまいますね。

支出の上振れ要因(日本食):1~3万円

海外駐在をする日本人の多くは日本食を入手するために多額の支出をいとわない傾向にあります。私の場合はその土地で手に入る食材で自炊するように心がけているため、自炊の経費は以下の通り安上がりとなっています。日本のコメ、調味料、その他の食材を随時購入するとなると、大きな上振れ要因となりそうです。

支出の上振れ要因(自己研鑽):1~5万円

プロ野球選手のように毎年契約更新するのが国連職員の人生です。雇用が不安定だからこそ、常に自己研鑽に投資し続けなければなりません。ヨーロッパ域内の大学の夏期講習へ1週間参加したり、書籍を購入して自習したりすることは若手職員にとっては当たり前のことです。私も月額に換算すると1~5万円程度は自己研鑽に投資している計算となります。

支出の上振れ要因(交通費):0.5万円

私の場合、平日は徒歩で通勤して週末は自宅にいることが多いため、交通費がほとんど発生していません。仮にジュネーブ市内からバスで通勤する場合、毎月5,000円程度かかると思います。

支出の上振れ要因(為替リスク):7万円

収入はドル建てなので、円高ドル安になると円ベースでは目減りすることになります。たとえば、110円から100円になると収入は7万円目減りすることになります。もちろん、為替とともに景気・物価も変動するため一概には言えません。ただ、円ベースで家計簿を付けている実感としては、為替変動のインパクトはかなりシビアに感じます。生活費が高いジュネーブですからなおさらですね。

まとめ

いかがでしたか?収入・支出が多すぎる?少なすぎる?様々な意見があると思います。正直なところ収入に関しては、生活できればそれで良いと思っています。お金のために働いているのではなく、やりがいのために働くという感じでしょうか。お金のために働くのであれば、別の道を選ぶでしょうね。まあ、独身で家族もいませんので、毎月の収支を気にせずにいられるだけかもしれませんね。

最後に感覚の話をします。私自身、生活スタイルが贅沢になったとは感じません。東京で会社員をしていたときと比較しても、外食・レジャーの回数は圧倒的に少なくなりました。日本の食材も必要としない自分が出来上がりつつあり、自炊の腕前は年々上がりますね。もちろん日本食が大好きなので、食べられる環境に身を置けば好んで日本食を食べますが・・・。

私の場合、基本的に平日はオフィスとの往復、週末は自宅で過ごすことが多いため、支出は最低限に抑え、預金もできています。しかし、物価の高いジュネーブでは、レジャーや一時帰国の頻度を上げるとすぐに赤字となってしまいそうです。一般的な国連若手職員がどのような生活をしているかわからないのですが、おそらく、収支に大差ないのではないかと察します。

国際協力を志す方の参考になればと思い、書きました。参考になれば幸いです。

追記(2024年3月17日)

この記事を公開してから7年ほど経過しましたが、多くの方に読んでいただいています。最近では、多くの国連職員が実情を語っています。私の体験以外にも、他の方の書籍などを読んでみてください。

※内訳(ジュネーブ勤務、若手(P2)、単身(妻子無し))

収入 支出 備考
給与 400,000 家賃 280,000
物価調整給 300,000 年金 70,000
住居手当 50,000 医療保険 30,000
朝食 10,000 500×20日間
お茶 10,000 500×20日間
昼食 30,000 1,500×20日間
夕食 40,000 10,000×4週間
外食 20,000 10,000×2回
インターネット 10,000
電話 5,000
散髪 5,000
一時帰国費用積立 15,000 年1回帰国する際の航空賃
その他 5,000 火災保険・交通費
預金 220,000
収入合計 750,000 支出合計 750,000