労働省への技術協力の日常
労働省は顔バレしているのか、毎回顔パスで部外者用IDも発行せず、通してくれるので時々不安になる。ここ数日は高温多湿の猛暑でじっとしていても汗をかく。昼時に労働省へ出社。腹ごなしに屋台でトンセンというスープ料理を汗だくになりながら平らげ、社会保障課へ。
到着するとランチボックスを出してくれる課員の皆さん。「外でトンセン食べてきたからいらないよ」というと、課全体が爆笑の渦に包まれる。トンセンの何がそんなにおかしいのか聞くと、「私のような外国人がその辺の屋台で食事をするのは聞いたことがないし、ましてやトンセンというマニアックな料理を一人で当たり前のように食べるなんて」ということらしい。噂と爆笑が静まり返ったあと、どこで伝言ゲームが食い違ったのかわからないが、トンセンを課員が私のところへ持ってきた。伝言ゲームはどこかで、「あいつ、トンセンなんか食ってるぜ」から、「あいつ、ランチボックスは気に入らないので、トンセン買ってこいと言ってるぜ」とすり替えられたらしい。言葉は難しい。ただ、同僚を見渡すと、インドネシア料理を食べている外国人職員はいない。ましてや屋台で食事をしたことがある人もいないだろう。そう考えると笑われたのも頷ける。
四時間弱の会議では、東南アジア諸国の年金制度に関する説明と、インドネシア年金改革で議論になっているポイントについて。タイ、ベトナム、ブルネイ、フィリピンの制度設計を説明。どの国も抱えている問題は似て非なるもので、事前に勉強してから説明することの繰り返しで私も学ぶ。
インドネシアは年金受給年齢と企業が設定する定年年齢に開きがあることが議論されている。つまり、55歳で定年退職しても、65歳まで年金支給が始まらなければ、どうやって生きていけばよいのか。という抗議が労組から出され、企業は「労働力は余っているので年寄りは雇いたくない」との立場。年金財源が悪化するので、当然年金支給年齢を下げる方向に議論を持っていくことはできない。東南アジア諸国で年金支給年齢を下げる方向の議論が少しでも出ているのは、インドネシア以外に聞いたことがない。なぜ、下げてはいけないのか。企業の定年との開きをどう解決すべきか。
他国の事例や国際労働基準なども確認しつつ問答を繰り返すことで毎回会議は半日費やす。会議と言ってもサシの会議なので互いに疲弊するが、それだけ議論するポイントが多い。例えば、国際労働基準では年金受給開始年齢を65歳以下にしなければならないとなっている。そういう細かいルールを頭に入れて必要なときに引っ張り出す瞬発力も必要となる。わからないときは、信頼できる同僚にアドバイスを求める。この繰り返しがOJTで、私の仕事人生は一生OJTだと思う。
そして、会議の終わりには宿題が出る。翌週も同じ会議がやってくる。金曜の夕刻に、「月曜日に郊外で政府会合があるので来て欲しい」と言われ、その場で隣にいたスタッフと出張手続きと通訳の手配・契約を済ませる。普段は出不精かつ出張も仕事が増えるだけなのであまり好まない。呼ばれる内が華ということで、直感的にポイントとなる会合には二つ返事で行くようにしている。
さて、良い議論になるとよいのだが。