条件付き現金給付(CCT)という病

今回の会合は副大統領府直轄のシンクタンク(TNP2K)が主催した会合で、インドネシア政府高官や研究機関の幹部が多く出席した。貧困削減が主題で、「撲滅のためには何が必要か」が議題。インドネシアは世界最大CCTプログラムを実施しているだけあって、巨額の税財源が過去二十年間投下され続けている。

私が大学院で貧困と社会保障を学んだ2000年代後半はCCT全盛期で、大学院の講師陣は目をキラキラさせてターゲティング手法と結果を研究し、事業やゼミの題材となっていた。バングラデシュのBRACのウルトラプアプログラムや卒業プログラム、ケニア、ザンビアなど今では誰もが知るところのプログラムは、当日目新しいものとして取り上げられた。

2009年に私の指導教官が主宰した研究会「Social Protection in Asia (SPA)」の会合がハノイであったとき、私も参加させてもらった記憶がある。その際にインドネシア高官がCCTについて発表していて、そのプログラムが改善重ねて今日もある。

CCTが隆盛を極めているのは2つの理由がある。まず、政治的に予算が付きやすいこと。途上国の政治家は、貧困層の支持を得られるかが当選の鍵となる。

CCTは貧困層だけにターゲットを絞って現金を配るプログラムなので、合法的に金を配ることができる上に、配り続ける限り貧困率は下がり続けるため、成果を数値で見せやすい。

もう一つの理由は、ミクロ計量経済学者の業績になること。一時期、経済学ジャーナルのほとんどの掲載論文はCCTのRCTを採用した論文と言われたことがある。

ノーベル賞をとったJPALの二人に代表されるように、研究者の多い世界銀行が社会実験と合わせて論文を書きまくるために都合に良いプログラムとなった。

そういうわけで、いまだに細かい要素を加えてターゲティング手法を磨く議論が続けられている。私のようにILOから参加している社会保障の人間は、懐疑的な質問を投げかける。

貧困率がほぼゼロになろうとしている時に、数パーセントからゼロにするために多額の税源を投入するより、社会保険などを充実させるほうが、貧困の予防と格差是正になると考える。

CCT界隈の省庁やシンクタンクは利権化している傾向があり、受益者もそのバックにいるから方向転換が難しい。これによって圧迫された税財源から貧困層以外の全国民が裨益するプログラムへ税源を付け替えるのは政治的にも難しくなっている。

たとえば、日本の国民年金は税源が投入されているが、同じことをインドネシアで提案しても中々税源確保が難しい状況ではある。

そんなことを思いながら、コメントしたり、新しい知り合いを作ったり、週末のタダ働きも収穫ありと考えたい。

ちなみに、CCTやターゲティングに関心ない方のために。要するに、生活保護の受給世帯が10-20%いる社会で、支給基準を微調整しながら、どの要素を加えたり省いたりすると良いか等を多額の税金でやっているイメージです。