子どもに教える

ここ数ヶ月働いてきた塾をやめることにした。理由は周知の通り、この街を離れるためだけれど、やはりどこか寂しい気もする。個別指導のため、常に1対1かあるいは2対1で生徒たちと接することができた。はじめこそ不慣れな部分もあって苦労の日々だったが、最近は生徒とも気楽に接することができている。だからこそこの仕事をやめるのがもったいない気がするわけだ。

ある生徒に静脈と動脈について話していた時のことを少し書こうと思う。「心臓を出た直後の動脈には酸素が多く含まれていて、静脈には二酸化炭素が多く含まれているんだ。なんでかっていうと、体中を流れている間に酸素が使われてしまうからなんだ。」そう説明する僕に彼は言った。「それって結局普通の社会と同じじゃん。だって、若いうちはたくさん働かされて、60歳とか70歳とかになるとポイって捨てられるんでしょ。リストラと同じってことでしょ。」

彼はこの塾の中でも一番手のかかる生徒なわけで、上司もいつも「あいつはほんとにダメだ」などといったりもしている。たしかにそれも一理ある。ここは学習塾。テストでいい点を取る子がイイ生徒で、点の悪い生徒はダメな生徒。塾で働いていると、そういう世界が今の日本の教育なのだと実感できる。

でも、この生徒と話すのが僕は大好きだったりする。血管の話を社会問題に例えて話すことのできる小6がどれ程いるだろうか。職業上、彼に理科を教えなければならないのだけれど、本心はカフェでお茶でも飲みながら話していたい。居眠りをしながら、机の前に座らされ、鉛筆を持たされ、真四角の紙に決まった答えを書き入れる。それが果たして教育なのか。

馬にでも跨って、あるいは日向ぼっこをしながら、草原に横たわって、太陽を見ながら、無限に想像を膨らませ、奇抜な話で盛り上がる。一緒に考える。そんな学校があったら、最高だろうな。本当にそう思う。

この仕事を経験できてよかった。