ジュネーブの春、インターネット時代の情報アクセス
この記事はワシントンDC開発フォーラムに投稿されたものです。
小鳥の囀りと新芽の香りが、真っ白なキャンパスを春の芸術に変えていきます。6年間務めたJICAから国際労働機関(ILO)へ移籍して一年が経過しました。プロ野球選手はフリーエージェント宣言をして、移籍後の一年はどういう気持ちで過ごすのだろう。その答えが少しわかったような気がします。
JICAでは入社から一貫してマネジメントの経験を積みましたが、こちらでは社会保障政策の専門家として、マネージャーではなくプレイヤーとしてのスキルが求められています。案件企画、業務発注、案件管理をする立場だったのが、政策文書に自分の考えを反映し、研修教材を作成し、トレーニングを提供する立場になりました。とても大きな変化です。
開発途上国のインフォーマル経済へ社会保障カバレッジを拡大するためにはどうすべきか。生活保護、子供給付、年金、医療保険、失業保険、障害給付、家事労働者、建設労働者、自営業者、農業従事者・・・。社会保障システム全体を守備範囲とし、脆弱なグループへどのようにカバレッジを拡大していくか。開発途上国のニーズに応じて、政策提言やガイダンスを行う仕事に日々携わっています。
社会保障の役割の一つはアクセスの確保です。予期せぬライフイベントがあっても、教育・保健・仕事へ継続的にアクセスできるシステムづくり。そして、社会保障制度へアクセスするためには、情報へのアクセスが必須となります。情報通信技術(ICT)最盛期にある今、あらゆるテクノロジーを駆使して社会保障制度の意義や加入方法などの情報を広めていきます。
少し話が逸れますが、このような仕事に携わっているとインターネット時代の情報アクセスについて考えることが多くなります。たとえば、私は自身のホームページでキャリア相談を受け付けていますが、毎月5件ほどの質問が届きます。居住地を問わず、同じ情報にアクセスし、ジュネーブの国連職員へワンクリックで相談できる。時代の変化を肌で感じます。
更に話が逸れますが、国際開発におけるナレッジマネジメントのあり方も変化を求められているように感じます。以前は有名ジャーナルに掲載されれば万々歳でした。しかし、これだけ情報がインターネット上に氾濫していると、査読プロセスを経た2~3年前の情報を隅から隅まで読む現場の人間はほとんどいないでしょう。現実的には、Google検索で上位表示されたペーパーの要約文だけ参照し、使えそうな部分を切り貼りして企画書なり、報告書なりを作成するのが、現状となっている印象を受けます。業界で名をあげるためには有名ジャーナルへの投稿も大切でしょうが、実務へ貢献することを目的とするのであれば、情報の発信方法を考え直さねばなりません。
ジュネーブで春の息吹を肌で感じながら、新しい時代の到来を同時に感じる日々。北海道十勝の田舎で生まれ育った私としては、春の音は側道を流れる雪解け水の音です。