おすすめ戦争漫画レビュー-終戦の日に70年の節目に戦争を考える

1945年8月15日から今日で70年を迎えます。当時の敵国でこの日を迎えることは感慨深いものがあります。戦争は、勝った方が歴史を作り、負けた方は歴史を受け入れなければなりません。また、戦勝国より敗戦国に戦争の記憶はより深く刻み込まれます。日本では70年の節目ということで連日戦時中の話が報道されていますが、アメリカではほとんどありません。原爆の記憶も日本にとっては現代に語り継ぐべき記憶であっても、アメリカにとっては過去のことのような印象を受けます。

集団的自衛権がどうあるべきか。米国や中国とどう付き合っていくべきか。専守防衛を放棄するのか。ここではどうすべきかを語るよりも、今年読んだ漫画の中から終戦の日に相応しいものを紹介しようかと思います。

 

第1位 ジパング(かわぐちかいじ)

海上自衛隊の最新鋭のイージス艦が太平洋戦争中の大日本帝国へタイムスリップする設定。史実ではミッドウェー海戦から始まる日本軍の連戦連敗。イージス艦一隻が日本軍の敗戦を止め歴史を変えていく。専守防衛にこだわる自衛官と日本を守るためには先制攻撃も辞さない大日本帝国軍人のぶつかり合いが、専守防衛の難しさを考えさせます。また、戦争を知らない世代の自衛官が、山本五十六をはじめとする戦時中の軍人と議論することで多くの葛藤にさいなまれます。フィクションに留まらないかわぐちかいじが贈る壮大な物語がそこにはあります。日経新聞による戦後70年インタビュー「漫画家・かわぐちかいじ氏 『敗戦の目線』リアルに(戦争と私) 」もあわせて。

 

第2位 沈黙の艦隊(かわぐちかいじ)

日本の原子力潜水艦が突如独立を宣言し、核廃絶を目指して大国と対峙していく物語。アメリカにモノを言えない日本から独立し、核の脅威をもってアメリカやその他の大国に核廃棄を求めます。原子力潜水艦が核弾頭を保有しているか確認のしようがないアメリカは、見えない脅威によって譲歩を迫られます。アメリカと対峙するとどうなるのか。フィクションを超えた壮大なシミュレーションを思わせる作品。

 

第3位 アドルフに告ぐ(手塚治虫)

在神戸ドイツ領事の息子、友達でパン屋の息子のユダヤ人、そしてドイツ総統ヒトラー。第二次世界大戦中の3人のアドルフの運命が一本の糸でつながっていく物語。戦争と政治が3人の運命を引き寄せ、引き裂く壮絶な物語。戦争によって左右されるそれぞれの人生を人間臭い部分の細かい描写とともに描いた手塚治虫の傑作。

 

第4位 太陽の黙示録(かわぐちかいじ)

漫画家かわぐちかいじが、日本人とは何かを問いかける物語。巨大地震が東京を襲い、富士山が大噴火。プレートの移動によって日本列島は南北に分断され、北日本は中国が、南日本はアメリカが事実上統治を行うことに。北陸から近畿に居住していた住民は全てを失い、多くが国外避難民となり、世界中へ難民として流出。世界中の日本人難民キャンプでは、ホストコミュニティとの争いが絶えず、親日国だった台湾でも日本人の排斥運動が活発化。本国へ戻ろうにも、南北日本政府が難民帰還を規制。中国とアメリカを背後に、南北日本はそれぞれの国として分離独立国家としての道を歩むことに。この壮大な物語のすごいところは、2000年代初期に執筆されたということ。その後実社会では、東北大震災を契機に首都直下型地震や富士山大噴火の危機感が高まっています。こうした自然災害に端を発し、日本が現在の経済的地位を失ったとき、国際社会は日本をどう迎えるのか。そういった問いかけに考えさせられる作品です。

 

第5位 凍りの掌(おざわゆき)

著者が祖父の実体験をもとに書き起こした渾身の作品。シベリア抑留とは何だったのか。終戦後に待っていた過酷な現実が実体験を元に克明に記されています。日本の教育課程では時系列をおって歴史を学ぶため、現代史はたいていの場合時間切れで学ぶことはありません。私もそうでしたが、第二次世界大戦は終戦の日までの学習でたいてい終わります。その後待っていたシベリア抑留がいかに過酷なものだったのか、日本人としては知っておくべきでした。

 

第6位 夕凪の街 桜の国(こうの史代)

昭和30年、戦後10年が経過した広島を舞台に、一人の女性が改装する原爆の悲劇。手塚治虫文化賞新生賞受賞作。100ページ弱の読み切り本ながら、力強いメッセージが凝縮されています。

 

第7位 わが闘争-まんがで読破-(ヒトラー)

原作を忠実に漫画化した作品ではない模様。民主的な選挙で選ばれたリーダーの下で第二次世界大戦へ突入していった国家・世界の狂気に満ちた描写が強烈なインパクトを与えています。

 

第8位 戦空の魂(天沼俊)

戦時中のエピソードをまとめた短編集。見方によれば戦争を美化しているようにも読めるものの、賛否を語らず、戦闘機乗りのありのままの姿を人間味あふれる描写で描いた作品。

 

第9位 戦争論-まんがで読破-(クラウゼヴィッツ)

プロイセンの軍人クラウゼヴィッツによる名著が原作。誰もが根底では平和を願いながら、人類は戦争を繰り返してきました。「理論上の戦争」と「現実の戦争」の間で、人々の心理と政治はなぜ戦争へ向かっていくのでしょうか。

 

第10位 永遠の0(百田尚樹)

言わずと知れた話題作の漫画版。神風特攻隊はテロリストだったのか。戦争を知らない世代による葛藤を描く。調査を進める中でわかってきた特攻隊員の悲壮な思い。人間味あふれる部分まで細かく描かれる物語。