国際協力機構(JICA)から国際機関(ILO)へ移籍して変わったこと

人の評価はどうでもよく、自分が満足できるかどうか

簡単に自己紹介をすると、国際協力機構(JICA)へ新卒で入社して6年、国際労働機関(ILO)へ移籍することになった。最近感じるのは、「こいつはJICA職員という素晴らしい身分を捨てて、一体何を考えているのだろう?バカだなぁ。」と考える人が世間には一定程度いるということ。実際に私自身も、JICAを去るかどうか、最後まで悩んだのも事実。職員一人当たりの予算規模が圧倒的に大きく(おそらく世界の開発業界トップクラス)、仕事の自由度も高い。やろうと思ったことは、たいてい実現できる。これが国際機関の場合、予算の制約が厳しく、出張に行くことすらままならないことも多々ある。

雇用の安定性もJICAに軍配が上がる。JICA職員が終身雇用であるのに対し、国際機関には終身雇用はほぼ存在しない。1年から2年で契約を更新していくいわば契約社員。プロ野球選手をイメージしてもらえばよい。

ただ、決断するときの基準は意外と単純でもある。結局、自分が満足できるかどうかが大切であって、世間にどう見られているかは関係ない。JICAに勤めていた頃に高く評価してくれた関係者もいて、それはとてもありがたいことだが、どんなに評価されても満足していない自分がいた。

私の場合、JICAでマネジメントのノウハウを勉強させてもらった。向こう数年は社会保障の専門性を磨きたいと考えた。そこで、今回の移籍になったわけだ。自分のやりたいことに正直になる。自分が満足できるかどうか。大事なことだと思う。

JICAが良いか、国際機関が良いか

最近、この質問を受けることも多くなってきた。「どちらが良いのだろう?」とアレコレ考えてみたが、結局答えが出ない。先ほどの話に戻れば、「何をやりたいか」次第だろう。

時々、「国連機関の方が格上でJICAの方が格下」と考えている方と出会うが、それは違うと思う。それぞれ、強みと弱みがあり、得手不得手があり、良い面と悪い面もある。「就職先」として比較することにあまり意味はなく、結局、「何をやりたいか」で必然的にどの機関が良いかが決まる。

例えば、JICAの良い面と言えば、圧倒的な予算規模。有償・無償資金協力と技術協力といった3つのスキームを兼ね備えていることが強みだ。また、予算を心配する必要がないことも強みだ。年々削減傾向にあるとはいえ、来月の人件費を心配する必要はないし、出張旅費も潤沢にある。

これが国際機関の場合、人道支援や技術協力が中心となるため、予算規模は圧倒的に少なくなる。国際金融機関(世界銀行等)を除けば、JICAのように数千億円規模の案件を動かすことはまずない。また、案件の持続性や職員の雇用の安定性もイマイチ。全ての案件、全ての人事が「ドナーからお金を集められれば」という条件付きで物事が動いていく。つまり、人件費も出張旅費もファンドレイジングが上手くいけば予算化されるだけで、自動的に翌年の予算が確保されることはない。技術協力プロジェクト一つとってみても、中長期的なスパンで開発途上国政府に寄り添って腰を据えた支援ができるのがJICA。一方、国連機関は人道支援など単発の支援は得意だが、5年~10年先を見据えた(確約した)支援を展開することはできない。予算が確約されていないからだ。

このように、深く考えずにイメージで書き出してみても、これだけ違いがある。先ほども書いた通り、強みと弱みがあるので、どちらが良いか比べることは難しいのが正直なところだ。

ILOの仕事は「作家」に似ている

ILOへ移籍してきて、仕事面で大きく変わったことがある。小さな話をすれば、JICAにいたころは、大量のメール処理と書類作成、人と会うことが日課だった。一方、ILOへ移籍してきてから、いわゆる決裁文書をつくったことは一度もなく、メールも一日数件来る程度だ。小さな話だが、日々の業務がここまで違うことには驚いた。オペレーション(事業展開)が仕事のJICAと、政策提言が仕事のILOの違いがここに表れている。

もう少し、大きな話をする。ILOでの仕事は社会保障の政策提言だ。具体的な日々の仕事は、「作家」のようなもの。政策提言ペーパーを書くことが仕事となっている。ILOは国連機関の中でも「専門機関」と呼ばれる組織で、労働・社会保障の政策にかかわる仕事がメインの機関だ。それゆえ、職員の仕事も、大量の文献を読んで政策ペーパーへまとめていく「作家」のような仕事になるのだろう。

アフリカの政府関係者に政策アドバイスを求められる

開発途上国の政府関係者との接し方も随分違う。JICAにいたときは、途上国政府関係者が陳情に来ることが多かった。「ここの地域に道路を引いてくれ。電力が足りないから発電所が欲しい。」そういった面談が多かった。

一方、ILOで働いていて「はっ」としたことがある。南部アフリカの政府関係者との面談時の話。「社会保障政策をどうやったらインフォーマルセクターへ届けることができるか。どうやって社会保障システムを構築すべきか。」このような政策に関するアドバイスを求められる場面が多くなった。

ILOは専門機関と呼ばれるだけあって、予算のほとんどは人件費。つまり、専門家の知識・スキルに予算が割り振られる。政策提言を政府から求められ、開発途上国の国造りを後方支援する。今は、そのような仕事をしている。