インドネシアの未来と国民の選択

ILOインドネシア事務所は新しい所長を先週迎え、順次着任後のブリーフィングと表敬訪問を行っている。私もようやく今日時間を合わせることができて、二時間じっくりと社会保障政策の課題や方向性、ILOがどうあるべきか、そのために所長はどうすべきか、広報や人事の改善点など、いつも通り生意気かつストレートに具申させてもらった。

うちの事務所は50人程度の所帯で、外国人職員は4人しかいない。私も偉そうに言えば、ILOのインドネシアにおける政策支援の全責任を負っている。まあ、数名の小さなチームなので、一言でいえば、ほとんど一人親方か零細企業の経営者といったところが実態だ。ILOから黙っていて予算をもらえるわけでもなく、自分たちが企画書を書いて獲得した資金でチームを作り、活動を継続している。私たちの活動の結果が、ILOの結果となる。逆ではない。Follow the money。アメリカで使われる格言で、金の流れを見れば何が真理かわかる。いずれにせよ、小さな所帯で国の方向性を左右する社会保障政策に対して助言している。この分野のILOの活動の全てを担っているわけで、責任は重い。必然的にブリーフィングも長くなる。

面談が当初予定の1時間から大幅に超過し、2時間。急いで食事を済まし、社会保障実施機関(BPJS Employment)と打ち合わせ。彼とは2018年から細く長く仕事をしている。WhatsAppを何気なくやり取りしていたところ、昇進して調査研究の担当になったという。じゃあ会って話そう、ということになり。今日にいたる。甘いホットチョコレートをすすりながら、年金改革について喧々諤々2時間。この国で数少ない社会保障を客観的に話す事ができる人材だ。

誤解を恐れずに言えば、今のままではインドネシアの20年後は明るくない。「ゴールデンインドネシア」というのが、国家長期開発計画に掲げられているが、社会保障政策を知るものとしては、2045年には高齢社会となり、7,000万人を超える無年金高齢者が全国に溢れかえる。それを変えることができるのは、今の世代であり、国民皆年金を早急に整備することが唯一の解決策である。しかし、結局のところ、この国の人々はほかのアジア諸国以上に楽観的に生きている。そのため、「こう言った込み入ったことはリーダーに任せ、俺たちは年金さえもらえれば何でもよい」と言い、同時に「保険料は払いたくないので政府が何とかしてくれ」と言う。「政府の財源は税金だが、税金を上げられても文句言わないのか?」と聞くと、「それはけしからん」と言う。この国は強権的なリーダーが正しい方向へ国民を導くのを待っているのだろうか。下から議論を積み上げて、リーダーが確認印だけを押す国とは根本的に社会が異なる。

そんな話をしていると、ホットチョコレートが底をついた。