組織はあなたを利用しているのだから、あなたも組織を利用しなさい

昔、ある人に言われたことがあります。

「組織はあなたを利用しているのだから、あなたも組織を利用しなさい。」

この言葉は、私の中で非常に強く残っています。国際機関における私のキャリア形成において、この人には深く感謝しています。

では、具体的にどういうことか。なぜ私がこれだけ顔と名前を出して、個人の責任でインターネット上で発言したり、大学で講演したり、ほとんど会社に行かずに自宅で仕事をしていたり、好き勝手やっているか考えてみます。極論を言えば、ILOは私が管理するプロジェクトにほとんど資金を投入していません。また、ILOは私の給料を払っていますが、財源はILOが配賦した予算ではありません。私が管理するプロジェクトはすべて、私が企画から資金調達まで担ったものです。つまり、そこから支払われる給与も、ILOから黙っていて配賦されたものではありません。

私が事業の立ち上げに携わったものを全て合わせれば、10億円以上の規模となり、6件以上はプロジェクトを立ち上げています。これらのプロジェクトの多くは、おそらく私がいなければ立ち上がらなかったものです。プロジェクトの中には、小さなプロジェクトを請け負って、資金を提供してくれる人たちから実績を信用として買われて、次の大きなプロジェクトに繋がったものも多いです。

インドネシアにおけるILOの社会保障の授業に関して言えば、おそらく私がここから去って別の国へ行くという決断をした段階で、ILOとしての支援継続は難しくなると思います。それは、組織として優先順位が低いということではなく、私が資金を集めてきてプロジェクトを作って、それを実行して信頼を獲得してきた流れを、次に誰がやるのかという問題が生じるからです。

お金の流れを見ればそれは自明です。インドネシア事務所が実施する社会保障に関する事業予算は平均すると年間三千万円から五千万円程度です。この予算のうち、本部から配布された予算はゼロです。事業費のほぼ全てが、私が営業、企画、交渉、審査を担って立ち上げたものです。

「たった10億円で偉そうに言うんじゃないという人もいるかもしれません。しかし、公的機関で働いたことがある人にはわかると思いますが、どれほど小さなプロジェクトでも手間賃は同じぐらいかかるものです。500万円の事業をオファーされたとき、私はそれを受けて実績を作って次につなげるようにしています。ただ、500万円のプロジェクトを立ち上げるのには、20億円のプロジェクトを立ち上げるのと、ほぼ同じぐらいの事務的なコストだったり、調整コスト、それから審査のプロセスを経なければなりません。これが公的機関で事業を立ち上げることの難しさであり、その後の説明責任や調達や財務のルールの縛りなど、煩雑な作業に縛られます。この点、民間とは大きく異なるのではないでしょうか。ガチガチのルールの中で事業を運営しなければならないのです。

話を戻します。結局のところ、「自由は自立の裏返し」なのだと思います。組織に利用されるのではなく、利用しなければならない。自立するためには、組織を利用して自分が自由になる事業を立ち上げ、能動的に運営する。その立場に身を置くことが大切です。つまり、自分で集めてきた資金で自分の事業を運営し、組織の看板で仕事をする。それによって、個人で成し遂げることが難しかった事業を実行することができ、組織からはほとんど日常的に制約を受けることがなくなります。自分の契約も自分で出し、スタッフも自分で選ぶ。予算の割り当ても自分で考える。

私の日々は、全て自己責任で完結しています。普段、上司と話すことも少なく、報告を求められることもありません。このような話をすると、言葉尻だけ捉えて、「楽して金を稼げていいな」と思う人もいるかもしれませんが、「自由と自立の裏返しは責任」です。自分に対する責任です。具体的に言えば、自分の事業が上手くいかなくなったり、資金を継続的に集められなければ、自分の契約も、スタッフの契約もなくなります。なぜなら、組織は私の事業にお金を注入していないからです。

国際機関でキャリアを目指す方へ向けて、あえて率直に私が頂いた助言と私のその後について書きました。偉そうに聞こえたと思います。ただ、最後にこれだけは付け加えておきたいと思います。私が事業を企画して運営してこれたのは、企画に共感して資金を提供してくれた組織があったからです。それは政府であり、その国の国民であり、民間企業です。そして、そこで勤務する職員の方々が一生懸命内部調整に労力を割き、これを実現してくれたこと。こうして色々な方々の見えない努力が積み重なって、私はここで事業を運営しています。感謝を忘れずに。この点だけは最後に付け加えさせていただきたいと思います。