ソマリア難民支援から難民問題とホストコミュニティの負担を考える

北アフリカや中東から多くの「難民」がヨーロッパへ渡っている。受入国との間ですでに軋轢が生じ、受け入れたいと思っている人々の思いとは裏腹に、受け入れ能力が限界に達している国も散見される。難民問題が専門ではないが、実際にソマリア難民支援を行った経験から感じた留意点を紹介したい。

東アフリカ大旱魃 (2011年)でソマリア難民がケニアへ

2011年、東アフリカは60年に一度の大干ばつに見舞われた。エチオピア、ケニア、ソマリアを含むアフリカの角と呼ばれる地域で、食糧不足によって1,200万人が影響を受けたとされる。特に、内戦の激しかったソマリアでは人口の半数の約400万人が影響を受け、多くの人々が難民として隣国へ歩いて渡った。

ケニア東部の小さな州ガリッサにダダブという小さな町がある。ケニア政府は人口1万5千人のこの町で、30万人以上のソマリア難民を受け入れている。私も2011年の緊急支援案策定のための調査で足を踏み入れたが、町らしい町を見ることはなかった。数少ない現地住民のほとんどが遊牧で生活し、町を形成せず、定住していない人々だった。

何もないダダブという地域に1990年代初頭、国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)が難民キャンプを開設して以来、ケニア政府はソマリア難民を受け入れ続けている。そして2011年当時で、難民キャンプは地元住民の人口の数十倍まで膨れ上がっていた。

こうした状況下で支援を検討する際に留意すべきことがある。

難民支援の3つのポイント-ホストコミュニティと難民の不公平

1. 難民は帰ることが前提

まず、大前提として難民は一時的に滞在しているだけであって、自国が平和になった段階で帰ってもらうということ。つまり、受入国は永住を前提として難民を受け入れていないということだ。報道によればケニア政府はその点を明確にしていたし、時として強硬策(難民キャンプの閉鎖)も辞さない構えを見せていた。

この前提が無ければ、単なる移民となり、人道的な観点で受け入れることが難しくなる。つまり、中長期的にこの人を受け入れて良いことがあるか、審査を厳格化する必要がある。一時的に受け入れるのであれば、人道的観点から受け入れやすい心情は理解しやすいだろう。

また、支援する側の立場を考えると、人道支援(Humanitarian Assistance)なのか、開発援助(Development Assistance)なのかで大きく意味合いが異なる。人道支援は人道的観点から今窮地に立たされている難民へ緊急物資の配布などを行うもの。開発援助は中長期的な地域開発をサポートするもの。

たとえば、難民キャンプへ住居の提供を要請されたとき、簡易なテントを配布するか、煉瓦造りの建物を作るか議論をしたことがあった。テントの場合、耐久性は3ヶ月だが安価。煉瓦造りの場合、高価だが数年使える。当然、費用対効果の観点からは煉瓦造りを選ぶのが妥当。しかし、煉瓦造りの建造物を造ると定住される恐れがあることから、受入国の抵抗感が感じられるケースがあった。

難民は平和になれば帰るべき人たちであって、定住するのであれば移民。先の例は、この前提を確認する良いケースかもしれない。

2. ホストコミュニティの負担軽減

難民も過酷な状況から逃れてきた人々だが、それを受け入れる人々、ホストコミュニティの負担も尋常ではない。自分たちの言葉も文化も常識も解さない人々が大量に地元に住み込む環境の変化、圧迫感は計り知れない。

支援を検討する際も、ケニア政府へ最大限配慮する必要がある。たとえば、難民キャンプを訪問した際にキャンプ側からは学校の設備(机・椅子)の供与を求められた。

国際協力機構(JICA)はケニア政府を通じてあくまで、ケニアへ支援を行う。そのため、ケニア政府がYesと言わない限りケニア国内で支援を展開できない。当然ケニア政府は自国民に利益がなければYesとは言わない。この点、難民だけを考えて支援を行うことができる団体とは事情が異なるかもしれない。

話を戻す。結論として、ホストコミュニティの小学校へも平等に学校設備を供与することでバランスをとった。JICAのプロジェクト概要「ソマリア難民キャンプホストコミュニティの水・衛生改善プロジェクト」をご覧いただければ、成果5が追加されていることがわかるだろう。

3. 寄付金は難民に集まり、ホストコミュニティには集まらない

こうした緊急事態の際、世界の目は難民へと向く。ホストコミュニティもケニアの中では最貧地域であったにもかかわらず、世界は彼らへ目を向けない。当然、寄付金は国際機関やNGOを通じて難民支援へ多く集まり、ホストコミュニティは蚊帳の外だ。その結果、難民キャンプは発展し、ホストコミュニティは相変わらず何の変化もないままという状況が生まれる。

ダダブでも同様の状況があった。国際機関やNGOを通じて多くの支援が世界から届いている一方、ホストコミュニティは完全に蚊帳の外だった。

こうした事情を踏まえ、国際協力機構(JICA)はホストコミュニティの支援に特化して同地域を支援しており、本来もっと評価されるべきだと思う。しかし、ホストコミュニティ支援は難民支援に比べて地味であり、報道受けもしない。寄付金や予算が得られにくいこうした地味な支援は、国際機関やNGOができない分野であり、JICAのような二国間援助機関(バイラテラルドナー)だからこそできる分野かもしれない。

教訓-今回のヨーロッパへの「難民」問題と異なる点

難民なのか?という議論が近頃報道されている。上述したように、母国が平和になった際に帰国することを前提としているかどうかで、受入国の心情・負担は大きく変わる。今回のヨーロッパへの「難民」が市民権を得て半永久的に帰国しないとなれば、ご紹介したソマリア難民支援の事情とは相当状況が異なる。

いずれにせよ、受入国のホストコミュニティの立場からすれば難民ばかりに注目や支援が集まる状況は受け入れがたく、地元住民との軋轢をいかに回避するかが今後の課題だろう。

参考(当時の担当案件のニュースリリースなど)

Author: The Povertistの編集長。アジアやアフリカでの開発援助業務に従事する貧困問題のスペシャリスト。貧困分析や社会政策を専門とし、書籍・論文も執筆。

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